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グビジネスを俯瞰する。

以下の文章は「足と靴と健康協議会」(略称FHAの機関誌「とれゆにおん(TRAID’UNION)」(2009年3月発刊号。同協議会は日本の靴産業の企業による組織で、シューフィッターの養成や業界の研究、教育機関として活動しています。)に掲載されたものです。

はきものの復権をめざして
“虚”の修正と“実”への流れの中で
  

1. はじめに

 

 「100年に1度の大不況」というのがはやり言葉になりましたが、私には100年に1度の話ではなく人類社会が何千年もかかって到達したものが、ここであらためて別のものへと向きを変えようとしているように見えるのです。
 人類は工業化社会から情報化社会へと限りない豊かさをめざしてきました。
 そして産業革命後の2世紀の間に、歴史上かつて例を見ないほどの急激な成長をとげました。
 18世紀の終わりに地球上の人口は10億人だったと云われます。
 人類の祖先と呼ばれる原人(ホモエレクトウス)の誕生が60万年前とも云われていますから、60万年かかってようやく10億人になり、それから現在の60億人になるのに僅か200年しかかかっていないということです。この200年がいかにものすごい時代だったということです。
 この想像を絶する人類成長の爆発と共に、世界はついに“実”の時代から情報というソフトな“虚”の時代へと変わったようにも見えます。
 しかし21世紀も10年近くが過ぎて、そうした方向が修正され、“実”の回復と復権をめざそうとしています。現在はその過渡期ではないでしょうか。“実”とは自然や地球ということであり、人間ということでもあります。
 こうした観点に立ってはきものの生活文化の可能性を考えてみたいとと思います。

 

2. “虚”のしくみが世界を変えた

 

 サブプライム・ローンという低所得者向けの住宅ローンが、日本のかつての土地神話と同じようにアメリカでも住宅価格が上昇しつづけるという前提がついに供給過剰になって下落し、大量のこげつきを生んだのが、今回の大不況の始まりだと云われています。
 私が“虚”と呼んでいるのは、例えばリスクの高いローンつまり債権を証券化したこと、云い代えると借金の証文を証券という商品にして、しかもそれを細かく分けてもっとリスクの低いましな債権と混ぜ、福袋のようなパックにして世界中に売るようなしくみのことです。
 借金はそのままでは(−)ですが、証文という回収できれば(+)になる可能性を証券にして、さらに福袋化することで現金になり(+)に変わるのです。
 こうした手法を金融工学と云うのでしょうが、最初は住宅資金を融資する半ば公けの組織が、資金を増やす方法としてローンの証券化を考え出したそうです。70年代の初めと云いますからそう古いことではありません。まさに“虚”から“実”を生む打出の小槌が考案されたのです。
 やがて一般の銀行の融資の債権にも採用されるようになりこの方法がどんどん広まりましたが、これは規制緩和で銀行業と証券業の兼業が可能になったからです。(20年代の大恐慌のときの教訓からこれまでは分離されていました。)
 モノや産業という“実”に投資してそれが証券化されるときには、モノをしらべたり人と会ったりしなければなりませんから遠く離れたところでは時間がかかります。しかしモノや産業に関係のない福袋になった金融商品は、ITとグローバル化の時代には地球上をあっと云う間に駆けめぐってひとり歩きをします。
 97〜98年のアジアの通貨危機のように、通貨レートをめぐってのカネのひとり歩きが一国を破綻にさらすことさえあるのです。

3章「ファッションも打出の小槌で“虚”?」つづく