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グビジネスを俯瞰する。

以下の文章は「足と靴と健康協議会」(略称FHAの機関誌「とれゆにおん(TRAID’UNION)」(2009年3月発刊号。同協議会は日本の靴産業の企業による組織で、シューフィッターの養成や業界の研究、教育機関として活動しています。)に掲載されたものです。

はきものの復権をめざして
“虚”の修正と“実”への流れの中で
  

5. 選択消費は浪費のファッションからの脱却か

 

 私は丁度1年前('08年)の3月に発刊された本誌NO.27に「この30年間をふりかえって」と題して執筆させて頂きましたが、その中で80年代に始まった“選択消費”に多くを割いています。
 ファッション化がすすみ多様化からさら個性化が求められたDCブランドの時代のことです。DCブランドのショップが立ち並ぶ館の中で、店側のデザイナーの個性をトータルで販売しようという思惑をよそに、お客が例えばジャケットをビギで、ボトムをピンクハウスで選ぶということが始まったのです。
 これは企業側のトータルで着るという情報よりも、ユーザーの感性や価値観でコーディネートするという情報の方がつよくなったということです。企業側の思うようにならないということで次のシーズンに陳腐化させて新しいものを買わせようという計画が不可能になったのです。
 ユーザーが自分で選択するとき、商品は装うためのパーツ、部品になり、道具になります。そして来シーズンにもまた着るかもしれません。
 私が前号でこの選択消費を強調したのは、こうした消費構造の変化がスポーツシューズの台頭につながったからですが、今回はさらに大きな問題として、ファッションが浪費をつくりだすものから脱却する、という流れの始まりであったことを指摘したいのです。
 大量生産が可能になった人類社会は、さらなる成長をめざしてモノばなれした情報消費によって、市場を大いに拡大しました。それは浪費の時代ということでもありました。
 こうして成熟した市場経済社会でさらなる成長をめざすとき、工業というモノづくりを他国に譲ったアメリカの行く道は、モノばなれのビジネスとしての金融立国ということでした。金融の自由化は世界の規制開放を促し、グローバル化はソ連も崩壊させて社会主義国も含めて世界を活性化させ、その果てのバブルが08年9月15日の破綻に至ったのです。
 例えば住宅バブルが供給過剰によって崩壊し、不況に至る構図は、19世紀以降くりかえされてきた不況や恐慌と同じですが、ITによる金融工学とグローバル化によって福袋は瞬時に世界を駆けめぐり、信用不安による収縮で地球全体が同時に不況に陥ってしまうところが大きく異なります。
 それは人間中心主義がさらなる繁栄を求めて自然を征服し、自然を収奪してつくり上げてきた人類社会の結果でもあります。
 この大きな流れが成熟し臨界点に達しようとしたとき、すでに地球と自然の側に立つローマ・クラブによる動きが始まり、その流れは時と共につよくなったことは周知の通りです。
 そして浪費を創り出すことで成長を促してきたファッションもまた、ユーザーの選択性によってローマ会議のレポート「浪費を越えて」に通底することになったのです。

 

 

6章「“虚”が“実”に向かう流れが始まるのか」つづく