Home

Trends

Color

Material

World Report

Seminar

News

グビジネスを俯瞰する。

以下の文章は「足と靴と健康協議会」(略称FHAの機関誌「とれゆにおん(TRAID’UNION)」(2009年3月発刊号。同協議会は日本の靴産業の企業による組織で、シューフィッターの養成や業界の研究、教育機関として活動しています。)に掲載されたものです。

はきものの復権をめざして
“虚”の修正と“実”への流れの中で
  

4. 新しい別の流れが・・・・・・

 

 こうして70年代にはファッションによる浪費づくりに拍車がかかります。いっぽう前に述べたようにアメリカでは住宅金融会社によってローンの証券化が始まり、やがて新自由主義の国家運営によって金融の自由化や規制の撤廃によってグローバル化がすすみ今日に至るのです。
 しかし興味深いことは、こうした浪費を促し金融による“実”を離れた“虚”のひとり歩きが準備されつつあった時代に、それと正反対の動きが存在していたことです。
 その'70年(昭和45年)に西欧先進国を中心に日本も含めて25ヶ国の経営者や学者によってつくられたローマ・クラブと呼ばれる国際民間団体(本部ローマ)があり、地球の環境や資源、人口などの問題を論じ、「成長の限界」というレポートを出して時代の流れに警鐘を鳴らしていたのです。
 私は当時初めてこのレポートで“エコロジー”という言葉を知りましたが、やがて「浪費を越えて」(BEYOND THE AGE OF WASTE)と題されるレポートNO.4が出されました。
 今日の人類の繁栄の根源を考えてみれば古来人間は生存を賭けて飢えや自然界の脅威と戦い、また欲望を満たそうと努力を重ねて来ました。それはつまりは人間の存続と欲望のために自然を征服し自然を利用する人間中心主義、つまりヒューマニズムが根源にあったということになります。そしてこれはギリシャローマ以来のあるいは大雑把な云い方をすれば西欧のキリスト教文明の思想とも云えます。
 産業革命以来の工業化と資本主義による近代社会の飛躍は、“もっともっと”という人間の欲望が増幅された結果と云うことができます。
 ライオンは獲物を得て満腹になればそれ以上獲物を追いませんが、人間の欲望には限りがありません。富という抽象化された欲望を追って金融工学という“虚”のしくみに至ってと云うことができます。
 ローマ会議には日本の大企業の経営者も参加していましたが、それでも'70年は大阪万博が開かれた高度成長まっ只中の時代であり、アンアンが創刊されたファッションの興隆期でもありましたから、成長は社会にとって絶対の正義であり、陳腐化によって新しいファッションが生まれ社会が成長するのに浪費を指弾とは何事か、というのが圧倒的な空気でした。エコロジーなどたわ言だったのです。

 

5章「選択消費は浪費のファッションからの脱却か」つづく