以下の文章は「足と靴と健康協議会」(略称FHAの機関誌「とれゆにおん(TRAID’UNION)」(2009年3月発刊号。同協議会は日本の靴産業の企業による組織で、シューフィッターの養成や業界の研究、教育機関として活動しています。)に掲載されたものです。
はきものの復権をめざして
“虚”の修正と“実”への流れの中で
6- 2.“虚”が“実”に向かう流れが始まるのか
膝に故障のある私は、毎朝駅の階段を避けてエレベーターの厄介になっています。
しかしエレベーターの中の半分は女子高生たちです。そしてその何人かは靴のカカトを踏みつけたスタイルです。
彼女たちのようでなくても、きちんとフィットした靴をはくことを嫌う風潮は誰もが認めています。そしてユルい大きめのサイズが自分のサイズと思っている人もめずらしくありません。
はきものにもラクで束縛のないことが生活習慣として定着しているのです。
もちろん靴について多少知識のある人は、正しいサイズをはくことが何よりも基本であり、大きめの靴がさまざまな足の障害の原因になっていることは周知のことです。
こうした現象のいっぽうで市場に目を転ずると、この10年ほどの具体的な動向で顕著なのは、ベーシックな靴種が大きな流れになってつづいていることです。
ローファー、ドライビングシューズ、バレエとカッターシューズとそれぞれ3年位つづいて、次の靴種に変っても定番として残っているのです。
いっぽう装飾性のつよいそのシーズンに限りのケバケバしい発散型のものも見かけますが、ティーン世代から50歳代までが、こうしたベーシックをそれぞれなりの服装ではきこなしているのを見て、選択消費が着実に拡がっているのがわかります。
靴は装いのパーツであり、道具になっているのです。
緩い靴が求められるいっぽうで、いよいよ目立つようになってきたのが靴と健康への関心のたかまりです。これは靴が健康のための道具だということです。
ファッションが浪費型から選択のパーツ、道具へとその流れを変えつつある中で、靴は本来の役目からも健康の道具という流れをリードしてよいはずです。
私たちは時間をかけて、正しいサイズを知って靴を選ぶことが健康な道具選びの基本であることを伝えなければならないでしょう。
足は第2の心臓であり歩くことが健康の基本であるという知識が広まるとき、伝道師としてのシューフィッターの活動はより説得力をもつはずです。
オリジナルが求められ、自分だけのかけがえのない<個>が云われるとき、シューフィッター上級コースの技能はまさにはきものでそれを体現するものです。
地球規模で人類社会の流れが変ろうとするとき、靴もまた浪費をつくるファッションから、人間が生きることへのすぐれた道具としての立場をつよめることでしょう。
おわり
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